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ベトナム系エスニック・エンターテイメントの研究
〜 在日ベトナム人社会の受容と機能 〜

日吉昭彦(武蔵大学・東京経済大学・成城大学・非常勤講師)

多文化関係学会 要旨集より
(於 立教大学)
2002年11月23日(土)
研究発表




1. はじめに

 本研究は、海外在住ベトナム人が興したメディア・エンターテイメント産業に着目し、商品であるパッケージ・メディアや活動しているエンターテイナー、こうしたサービスの在日ベトナム人社会における受容についてフィールド調査に基づいて分析するものである。在日ベトナム人社会における「エスニック・エンターテイメント」の機能を明らかにすることが目的である。

  2. 国境を越えて展開する越僑エンターテイメント産業
 アメリカを中心とした越僑エンターテイメント産業は独自のネットワークでそのサービスを展開してきた。カリフォルニア南部リトルサイゴンに本拠地を置く「Thuy Nga」や「Asia Entertainment」は、ポピュラー音楽を中心に、CDやDVD、ビデオなどの原盤製作からコンサート・プロモート、出版までを行うブロックバスター型メディア産業である。フランスやオーストラリアに支店を持ち、全世界のベトナム人に向けてベトナム語によるエンターテイメント・パッケージ・メディアを供給している。CD販売を例にとると、約2万枚の売り上げでヒットと言われるほど市場規模は小さなものであるが、ベトナム人には人気のあるメジャーな存在である。こうした産業が成立するのは、国際移動の波のなかで「在外ベトナム語圏」といえるような地域を越えた領域が市場として成熟してきたからであろう。
 パッケージ・メディアとして提供されるポピュラー音楽には多様なジャンルが見られるが、そのなかでも伝統音楽の要素を現代ポピュラー音楽に取り入れた特徴を持ち、現代のベトナムでも大衆歌謡の代表的な存在である「Nhac Que Huong(故郷の音楽)」というジャンルは、越僑の人気歌手によって数多く歌われている。また、現代のベトナムではほとんど聞かれることがない1975年以前に作曲されたポピュラー音楽などがコンサート等で歌われるのも越僑のエンターテイメント・イベントの特徴である。パッケージ・メディアの内容には、難民として故郷を離れ海外で生活する越僑の複雑な望郷の念が表象として現れているのである。
 こうした産業におけるエンターテイナーは多様な背景を持つ海外在住ベトナム人を象徴する役割モデルを持ち合わせている。「Thuy Nga」や「Asia Entertainment」で活躍する歌手を見ると、1975年以前からベトナムで活躍していたものやその二世、アメリカで生まれ育った二世などの世代ごとに、また難民出身のものや近年になって移民したものなど入国のモードごとに、また中国系のベトナム人や親がアメリカ人のものなどエスニシティにより、その横顔を分類することができる。こうしたメディア戦略としての多様性の演出とその受容は、多様なコミュニティの成員に潜在的な帰属意識を補強するという役割を果たしているであろう。

3. 在日ベトナム人社会におけるエンターテイメントの受容
 在日ベトナム人向けエスニック・メディア「月刊メコン」を発行するコミュニティ・ショップ「メコンセンター」は、こうした越僑産業の正式な代理店であり、パッケージ・メディアを輸入販売している。また、提供される各種サービスをエスニック・メディア上で記事化することでエンターテイメントに関わる情報を提供し、在日ベトナム人社会におけるエスニック・エンターテイメントの受容の窓口になっている。
 この「メコンセンター」は、1998年12月と2000年6月に、越僑歌手のなかでも極めて知名度の高い「Khanh Ly」や「Nhu Quynh」などの歌手をアメリカから招聘し、東京品川でコンサート・イベントを開催した。このイベントでは越僑のプロフェッショナルなエンターテイナーだけではなく、在日ベトナム人のアマチュアが参加し、演奏やファッションショーなどを行った。「メコンセンター」の広報紙としての役割を持つ「月刊メコン」の紙面上では、一年越しの招聘活動や企画内容が逐一記事化され、イベントに参加する在日ベトナム人は越僑の有名歌手と同様に紙面に大きく登場した。イベント当日は、地方から在日ベトナム人が観客として集まるなど、チケットはほぼ完売であった。
 この事例から、在日ベトナム人社会が越僑社会の一地域であり、日本のベトナム語エスニック・メディアも越僑社会の地域メディアの一つであることが分かる。こうしたメディアは「在外ベトナム語圏」と言えるようなエンターテイメント産業の成立基盤を創出するとともに、主体的参加によるエンターテイメント受容の場を創出している。エスニック・エンターテイメントは、こうしてエスニシティの空間への帰属意識を強める機能を果たしているのである。

引用文献
白水繁彦(1998).『エスニック文化の社会学 -コミュニティー・リーダー・メディア-』日本評論社 ほか



 
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本論文について

特 徴
 この発表は、武蔵大学の白水繁彦先生のプロジェクト「エスニック・エンターテイメント」の研究の一貫として行ったものです。エスニック・メディア研究を発展させて、エンターテイメントに着目しました。エスニシティ研究の文化社会学的なアプローチになっている点が特徴です。

解 説(簡単な)
 2004年には、「Thuy Nga」や「Asia Entertainment」と並ぶ規模の越僑のプロダクション「Van Son」が、日本で公演およびプロモーションビデオの撮影を企画しました。東京品川では1000名を越える在日ベトナム人が集い、近年、こうしたイベントは数年に一度は開催されるようになっています。

付 記
 この調査の一部は、武蔵大学総合研究所の助成を受けています。

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