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「亜国・日本語新聞と「出稼ぎ」労働者
〜 「らぷらた報知」「亜国日報」の役割 〜

田村紀雄/岩田三男/山本英政/服部秀夫/ 日吉昭彦


コミュニケーション科学
(東京経済大学コミュニケ ーション学会機関誌)
No. 9
1998年10月
p61-p80





本サイトに掲載されているのは、共著論文の一部で、日吉が担当した部分「日系南米人コミュニティにおける「教会」の機能」だけになっております。


日系南米人コミュニティにおける「教会」の機能

本節は、日系南米人コミュニティにおける「教会」の機能ついて、主に言語的な観点から考察するものである。本稿に先立ち、群馬県にある「カトリック太田教会」にて神父に面接調査(註1)を行ったので、主に群馬県の事例を中心に紹介したい。

「カトリック太田教会」では、毎月第一日曜日にポルトガル語によるミサが開かれている。ポルトガル語のミサは当教会の日本人神父が自らポルトガル語を用いて行う。近隣に多く住む日系ブラジル人を中心に、毎月150名ほどは集まるのだという。また毎月第三土曜日にはスペイン語のミサが開かれている。スペイン語のミサは、スペイン語を話すことのできる日本人神父が別の教会から来て行う。日系ペルー人・アルゼンチン人を中心に毎月50名ほど集まるという(註2)

出稼ぎで日本に来て日本語が不自由な者も多い日系の南米人にとって、母国語でのミサとは、母国語と接し、母国語を話す者同士が接する一つの機会なのである。「カトリック太田教会」にはこれらのミサで友人に会うために、遠く熊谷や本庄から来る者もいるという。「教会」は信仰という場から、日系の南米人のとってのコミュニティーの場としての広がりを持ってきている。

日系ブラジル人出稼ぎ者と宗教との関わりを論じたアンジェロ(註3)は「宗教集会は.......時にはストレス解消や精神的安定を得る場であり、『駆け込み寺』でもある」と述べている。ミサの後のひと時に母国語を話せる日本人と生活相談をしたり、あるいは普段接する機会の少ない日本人とコミュニケーションを取ることができるというのも、「教会」がコミュニティーとして機能していて、日本における多国語によるミサが日系の南米人にとっての生活適応のための潜在的機能要件となっていると言えるであろう。「カトリック太田教会」では、地元の日本人ボランティアがミサの後にコーヒーの販売サービスなどを行っていて、気軽に教会でのおしゃべりができるような配慮もしているという。

そのようななかで日系の南米人が「教会」によせる相談も幅広く、在留に関わる様々な法規上の相談から、医療、金銭、あるいは日常の友人との関わりまで、様々な相談が寄せられるという。こうした日常生活と結びついた、行政で対応しきれないような様々なケースに対応してゆくことは、「教会」がソーシャル・ワークを通じて、日系の南米人との関わりを深めていることである。母国語での相談は、修道院から派遣されたシスターなども対応に当たっている。例えば、スペイン語を話すことができるメキシコ出身のシスターは、「カトリック太田教会」だけでなく、「カトリック伊勢崎教会」「カトリック桐生教会」の3つの教会を巡回している(註4)。このように、地域の性格をふまえた人のネットワークの組織化も見られる。寄せられる相談には専門的知識の必要なものも多く、必ずしも教会内ですべて解決できるとは限らないが、町の専門家や行政への紹介や依頼を通じてケースに対応するなどして、「教会」は一種の窓口としての機能をも果たしている。これは、単に「教会」が翻訳者としての役割を持つだけでなく、言葉が不自由で日本における社会生活に踏み込めない日系の南米人の社会参加を助長する機能を、「教会」が持ち合わせていることなのである。

ニ世三世の若年の者に日本語教室を開いた事例は、90年という日系の南米人が出稼ぎで日本に来た当初から、愛知県の「カトリック安城教会」などが取り上げられている(註5)。一方、彼らの年代の子供が小学校や中学校に入学するようになった現在では、むしろ母国語を忘れることや、多忙な労働のなかで日本語を学べない両親とのコミュニケーションギャップが生じること、あるいはまた帰国後の現地生活での適応の難しくなるのではないかといった課題が上ってきた。「カトリック太田教会」では、こうした両親の心配をふまえ教会の場を貸し、ボランティアのスタッフがポルトガル語やスペイン語の教育を日系の南米人の子弟に行っている。「教会」は日本における社会参加を助長するだけでなく、海を越えて生活基盤を持ち合わせる彼らの、価値の葛藤に対する適応という機能も持ち合わせている。

以上、群馬県における「教会」の日系の南米人に対する活動と機能を主に言語の観点から考察してきた。多国語のミサに関しては、東京の大都市の教会などでも行われているが、地域に根ざしたコミュニティーとしての「教会」のあり方は、こうした地方都市の「教会」の活動の事例にこそ実践的な機能を見ることができる。「カトリック伊勢崎教会」の神父は、「二つのアイデンティティに揺れる日系の南米人にとって、教会がコミュニティースペースとなるための努力は、教会内での現代的な議論の対象である」と述べている。こうした事例は、「内なる国際化」を模索する日本の福祉問題に接する者にとっても、また日常生活を送る地域の人々にとっても、「移民の見えざる環境」を理解し、相互理解のための問題解決を行ってゆくためのきっかけとなるにちがいない。



1)5月17日(月)に「カトリック太田教会」における面接調査を行った。質問者は田村で約一時間の聞き取りを当教会神父に行った。
2)「カトリック伊勢崎教会」では、ポルトガル語のミサが第3日曜日、スペイン語のミサが第4日曜に行われている、同様に「カトリック桐生教会」でもポルトガル語のミサが第 日曜日、スペイン語のミサが第 日曜に行われている。群馬県内で両国語のミサへの参加は地域的に便宜性が高いと考えられる。ただし、毎週場所を変えてミサに参加するものはおらず、近隣の教会へ出向くのが通常であるそうだ。
3)渡辺雅子編著「共同研究 出稼ぎ日系ブラジル人(上)論文編・就労と生活」 -アンジェロ・イシ[日系ブラジル人出稼ぎ者と宗教] pp309-328, 明石書店, 1995
4)6月5日(金)に「カトリック伊勢崎教会」における面接調査を行った。質問者は日吉で当教会シスターおよび神父に約一時間の聞き取りを行った。以下の本節の「カトリック伊勢崎教会」の事例はこの聞き取りから参照している。
5)朝日新聞, 「日系ブラジル人に日本語を指南 安城のイタリア人修道女, 1990, 9月10日朝刊/名古屋



 
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本論文について

要 旨
 群馬県のカトリック教会のシスターへのインタビューを分析したものです。教会で行われているミサ、日本語教室やポルトガル語教室、各種相談活動などが、日系の南米出身の方々のコミュニティー形成に果たす役割を分析しています。

特 徴
 教会のソーシャルワークを、社会言語学的な観点から分析した点が特徴です。

解 説(簡単な)
 現在、日本のカトリック教会では、多言語によるミサが開かれています。多言語によるミサをカトリックが認めたのは、近代になってからのことです。コミュニティの観点と同時に、カトリックの世俗観の変化やソーシャルワークと信仰の接合などを考えてみるのも面白いと思います。

付 記
 国立国語研究所による科研費プロジェクト「国際社会における日本語についての総合的研究」の一貫で、「日本語観国際センサス」グループの事例調査「北米日系人社会と日本語新聞」の一部です。


Backstage
 田村紀雄先生をリーダーとする研究グループとともに、群馬県でフィールドワークを行いました。このプロジェクトの調査は、実に刺激的で楽しいものでした。
 シカゴ学派のアプローチの大家である田村先生のもとで、フィールドワークの魅力を教わりました。日本語教育の専門家である岩田先生の車で群馬県をめぐり、大泉町役場など行政関係の方々へのインタビューから、サンヨーやスバルの工場、南米料理店の探訪まで・・。ハワイの日系人研究で知られる山本先生や編集者の服部先生とご一緒したお酒もおいしいものでした。

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