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移動の情報統制
〜 自動改札のメディア論 〜

日吉 昭彦(成城大学文芸学部マスコミ学科)


未出版
(成城大学学長賞 懸賞論文 受賞論文)
1992年




要旨

92年夏、JR線を中心に駅の景観がガラリと変わった。このいささか突然過ぎるとも言えるような変化に話題を膨らませた人も多いのではないだろうか。「裏が茶色の切符をご利用のお客様は・・・・・」という機械的な声。リズミカルな切符きりのはさみのカチカチ音から不定期なガチャガチャ音へ。サウンド・スケ−プの変化にも慣れたころで あろうか。デジタルな表示がGOサインと行き先を示している。そう、駅という移動空間へと進入する扉、そして突然広がる別世界へと開く扉。自動改札である。

関西では自動改札なんて見慣れたものだった。自動改札なんて目新しい物ではない。ところが関東ではこれまではごく一部を除いてはほとんど見当たらなかった。東京の心臓・山手線と動脈・中央線にようやく出来始めたのがここ1・2年の出来事である。

整然と並ぶ自動改札に切符を入れると即座に先にある取り出し口から切符にパンチ穴が 開けられて出てくる。同時に閉じている門が開き駅の中に入ることが出来る。出口では切符は回収されるので門が開くだけだ。この間 約0.5秒ほどである。この非常にスム−ズな機械には、もはやラッシュ時に駅員さんに切符を手渡して受け取るといったような苦労はない。渡せないで切符を落としてしまったり、逆に受け取れずに通り過ぎてしまったりというわずらわしい経験は誰もがしたことあるのではないだろうか。お手軽で確実。実に便利な機械である。またこの便利な機械は以前のような見落としや見間違えも決してない。万が一不正な乗車をしようものなら、勢い好く門がしまり、けたたましいブザ−が鳴り響く。

この後発の便利な機械に象徴されるように現代はまさしくオ−トメ−ション化の時代である。科学技術の著しい発展は人間をあらゆるわずらわしさから開放する。苦行からの自由と開放こそ、人類が科学と技術に託した共通の夢であるといえる。しかし高度にオ−トメ−ション化の進んだ光景に幾分不思議なあるいは不気味な気持ちになったことはないだろうか。ロボットだけで人のいない工場。受付のない銀行窓口・・・。それは私たちは何かが足りないことを感じているのだ。そして自動化という便利さに隠された目に見えない力、便利さと引換えに私たちが盲目にも受け渡している何かを、薄々と感じ取っているからなのだ。

例えば百貨店のカ−ドは、利用すると消費行動が情報として記録され、ダイレクトメール制作時や販売促進のためのデ−タとして利用される。これと同じように自動改札に次々と移動の情報が書き込まれて記録されているとしたら・・・。さらにそれが利用されるようになったら・・・。二足歩行の苦しみから開放され、より広範な活動範囲と文化を持った私たちにとって、鉄道による移動はまさに基本的な生活そのものである。それを常々監視すること。これこそ自動改札に与えられた目に見えない潜在的な機能である。便利さが権力構造になるという現代の持つ危機を自動改札を例に取り上げたのが本論文の試みである。





第2章 自動改札の現状と今後の見通し

自動改札の現状と機能、および今後の見通しについて論じてみたい。そこで筆者は、JR東日本の広報担当(営業企画部 自動改札課)の方にインタビュ−を試みた。その結果をもとに考察してみよう。

大阪に初めて自動改札が導入されたのは1967年(昭和42年)のこと。阪急電鉄北千里駅(吹田市)であった。その後、関西では自動化が進み、阪急・近鉄などでほぼ100%に近い自動化が実現している。一方、関東では武蔵野線(1973年・昭和48年)と京葉線(1986年・昭和61年)の一部を除いて、自動改札化は1990年4月を待つことになる。この実は目新しい物ではないはずの自動改札が、突然に東京の景観を変えることなった背景を見ていきたい。

   (1)関東における自動改札導入

まず、何故関東と関西で導入の時期がこんなにも違うようになったのか。この問いは「何故関東に導入されなかったのか」とも考えられるだろう。答えは関東と関西の鉄道網の構成の違いにある。関東と関西の鉄道網における最も大きな違いは会社連絡線、つまり会社間の相互乗り入れに見ることができる。関西においては阪急は阪急線とその関連会社線、近鉄もその関連会社線以外の路線との、相互乗り入れ、直通運転、連絡運輸はほとんど見られない。それに対し関東は非常に複雑に絡み合って、一体どこからどこまでが一社の鉄道なのか、一見しただけでは分からないほどである。

自動改札は磁気情報を読み取ること(古い自動改札は読む機能だけだった)によって乗車券を判読している。そのためには乗車券に統一した情報を書き入れておく必要がある。これが磁気エンコ−ド化である。磁気エンコ−ド化されていない乗車券は自動改札では使えない。自動改札の機能を十分に活用するためには、全ての乗車券に確実にエンコ−ド化を施す必要があるのだ。自動改札が使える場合と使えない場合があったのではメリットが少なくなってしまう上に、自動改札を導入するための投資が非効果的になってしまう。さらに乗車駅、降車駅の両方で自動改札を導入しないとやはり十分に効果を果たしているとはいえない。

この点で関西は設備投資がしやすかった。つまり他社との連絡が少ないぶん、乗車・降車駅で確実に乗車券の出札管理ができ、自動改札が確実に利用されることになる。全ての路線を自動改札でクロ−ズすること。これが理想的な条件であり、ネットワ−クが小さければ、それは容易となる。アメリカのBART,WMATAもしかりだ。ところが関東では会社連絡が多いために、エンコ−ド化されていない乗車券を発売する線から、他社の連絡通路を通って、全く違った会社線の駅に降りることができる。入口と出口で共通なエンコ−ド化を行うことは、会社の違いから難しかったのだ。自動改札には事前の先行投資と規格整備が必要となる。関東ではそれは会社を越える必要があり、コストの面でも行政の面でも難しかったのである。

また、自動改札自体の機能にも問題があった。1990年の時点で東京を中心に100Km以内でJR,民鉄ともにエンコ−ド化を可能とする券売機が導入されたが、非常に連絡の多い関東では、既存の自動改札では情報判断力が追いつかなかったのである。

これまで関西で使用されてきた自動改札と乗車券のエンコ−ド型式を、NRZ(nonreturn zero to one)方式と呼んだ。この型は情報量(保磁力)が少なく、自動改札は情報の読み取りができるだけだった。さらに、駅間の経由をした場合、5経由までの情報しか読み取れない。例えば定期を利用して3つの会社連絡をして通勤したとしよう。すでにこの時点で6経由を含む移動になるので読み取れなくなる。関東首都圏の大きなネットワ−クで、しかも相互乗り入れの多いオ−プンル−プとなっている路線で、自社と他社との連絡を確実に証明し、料金を分配するには、より高精度な自動改札と、より高い情報を持つ乗車券を発売する券売機が必要だったのだ。

現在はFM方式の自動改札が導入され、情報量は約10倍近くに増えた。この新しい方式では情報の複雑な記録や自動改札での情報の書き込みが可能となり、8経由までの判断が可能となりほとんどの定期券をカバ−できるという。

   (2)現況

民鉄・JR両方の東京中心100Km内の首都圏で乗車券の規格が揃い、JRでは自動改札を1992年4月に山手線内から、100Km内350の駅を対象に、平成5年度を目標に導入を決定している。JRは古い自動改札を再整備した後、9駅13改札を1セットに山手線内から導入開始。ラッシュの激しい新宿・池袋、地方との連絡の多い東京・上野が中心となった。混雑等のリスクが考えられるが、

(1) 利用者のシステムへの習熟
(2) 駅近代化のイメ−ジの訴求効果
(3) 利用者のシステムへの習熟

との理由からあえて大駅から着手している。

   (3)JRへにインタビュ−

技術的な問題点を解決して、自動改札は導入に踏み切られたわけだが、その根本的な導入意図をJR東日本の広報担当(営業企画部 自動改札課)の方にインタビュ−を試みた。その内容は以下のとうりだ。

(1)省力化

(2)サ−ビス向上

(3)不正乗車防止

(1)の省力化の内容は、人件費の上昇率に対してハ−ドウェアの上昇率の小ささいことと、従業員の改札業務等の環境改善が中心とのこと。コストに関する質問は秘密事項とのことで答えてくれなかった。また、改札業務の想像以上の労働環境の悪さは耳をひいた。切符を切った跡の紙の散乱、乗客が絶えず往復するため舞い散る埃、夏の猛暑と冬の酷寒・・・。悪環境からの解放は自動改札の最も期待できる機能だそうだ。悪環境から悪サ−ビスという悪循環を避けられるという点でサ−ビス向上にもなっているとのこと。「ムッとした顔に毎日つきあわせるのが嫌なお客さんもいるでしょうから・・・」とのコメントもあった。

 (2)のサ−ビスとは、マルチカ−ドやプリペイドカ−ドの導入(現在はオレンジカ−ドやイオカ−ドがある)による券売の時間短縮、改札のスム−ズ化、駅の美観などの目に見えるサ−ビスと、省力化からの投資効果の上昇からその他のサ−ビスの向上、運賃上昇防止効果による目に見えないサ−ビスの2つだそうだ。券売機の表示は、ご存じのとおり運賃表示になっていて、行き先は別の表示を参考にしないと分からない。カ−ドを利用すると出口で自動的に料金が引き落とされるので苦労が減る。またFM方式の自動改札に変わったため乗車券は毎秒2Mという高速処理が可能となった。毎分では70人という数の処理能力を誇っているそうだ。以前は時間によって改札が閉じたり開いたりしていた(例えばラッシュ時に改札が4つ開いていても、昼間の空いた時間は1つだけになったりする)のが、常にどの場所の改札も開けておけることで幅広いサ−ビスとその質的変化ができるということだ。興味ある投資効果については秘密事項とのこで語ってくれなかった。

ここでオレンジカ−ド・イオカ−ドについて説明しておく。オレンジカ−ドは磁気式のプリペイドカ−ドで、券売機で乗車券と引き換える。これに対し、イオカ−ドは同じ磁気式のカ−ドながら自動改札に直接投入し乗車段階で最低料金を引出し、降車駅で料金の金額を引き出すというカ−ドだ。裏面に乗車時の情報が印字されており、自動改札の無い駅で乗降車する場合や他社駅への連絡では、そのつど換金する。

(3)の不正乗車防止効果は自動改札の改良によって飛躍的に伸びたという。以前の10倍にもなった情報量のおかげでほとんどの不正乗車を発見できるという。

   (4)自動改札の機能

不正乗車の防止についてのコメントでは、JRとして「正直者が損をしない交通マナ−の改善と多額の損失防止からのサ−ビスへの転化」をあげている。そしてこの実現には自動改札の機能の改良が可能にしているという。与えられた情報の読解だけの機能を持つNRZ方式から、読み書きを可能にしたFM方式への変換が、どのような不正乗車防止の方法を取るのかをいくつか代表的なものを例に上げながら紹介してみたい。

(1)一定区間の定期を持った人が区間外の駅から乗車(最短区間分の切符を買う場合と料金を全く払わないでのる場合がある)し、持っている定期で駅から出る。

(2)定期を持った人が一度駅から出た後、ホ−ム内の人に定期を渡して何度も一枚の定期を利用する。

この場合定期券に自動改札では乗車時のデ−タ=乗車駅、利用通路・改札、利用時間が書き込まれるのだが、上のケ−スではそのデ−タが未記入となっているために不正と分かる。

(3)大人が子供料金の切符で入った。

自動改札についている赤外線センサ−によって高さなどから判断する。

(4)盗難、拾得定期券の使用、換金した

定期券は名前や職業などのデ−タが記入してある。定期券の紛失を届けてあれば不正な使用は自動改札で判断でき、換金もできない。

また判断できないものには大人が一枚の乗車券でぴったりとくっついて自動改札を通った場合は判断不能とのこと。そのような場合は自動改札には窓口職員がついており警告ブザ−と状況を常に把握している。また鉄道会社とは別に交通警察が私服で警備をしている。 

     (5)今後の展開

「自動改札をめぐる発展と今後のサ−ビスの在り方」について質問したところ、次のような解答があった。

 (1)JRの使用する新規格と旧規格を使用する他社との円滑な連絡システムの設計
 (2)連絡の多い改札の形態の根本的再構築
 (3)多機能型カ−ドの開発

 (1)・(2)は新規格移行に伴う新設備が必要となることから、他社との足並みを揃えることが必要になり、4から5年の期間が必要になる。さらに自動改札での処理能力のさらなる向上が必要だ。改札の位置の現状などに合わせた自動改札の機能の発展が望まれる。

(3)は現在の磁気カ−ド式乗車券から、無線ICカ−ド等の非券型乗車カードへの移行を意味している。現在はまだ実験段階であるが、非接触型で、先払いや後払い、バンクカ−ドやクレジットカ−ドとの合流を目指すものだ。技術的問題や金融周辺の問題を解決できればサ−ビスの在り方も大きく向上するとのことだ。

このICカ−ドが導入されると券売機すら必要性が少なくなる。つまり、カ−ドが自動 改札に投入されると、電話回線によってカ−ド会社へ連絡され、銀行から引き落とされるようになる。あるいは定期の機能を付加したカ−ドが作られるだろう。 当然予信問題も絡んでくるだろうが、将来的に金融の自由化が進み銀行、信販、証券などの壁が取り払われた状態になれば、大規模な金融ネットワ−クとしての機能を鉄道会社が持つことになる。元来鉄道会社は、業務技術の発展から、例えば踏切の処理など、情報通信の分野ではリ−ダ−的存在である。全国を横断するJRの路線は、物的にも情報の通路を持っていることになる。

さらに鉄道会社は、関連会社を作り、流通から販売まで幅広い都市開発を行うことによって、乗客を誘致している。大手デパ−トにはほとんど鉄道会社の名前が見ることができる。例えば渋谷の東急デパ−ト、聖蹟桜丘の京王デパ−ト、新宿の小田急デパ−ト、JRではルミネなど。乗車券の代わりとなるICカ−ドには当然消費関連の情報が含まれてくることになる。さらには詳細な個人情報を含み、移動情報と掛け合わせて利用されるだろうことは想像に難くない。しかし、一枚のカ−ドで移動から消費まで全て済んでしまえば、便利なことこのうえない。消費者としては一般的に広がってしまえば、すなわち飛びついて有り難がるにちがいない。







自動改札の不正乗車の防止から、利用者の「移動のデ−タベ−ス化」と「情報交流」が行われたらどうなるだろうか。

第1に、個人の移動デ−タが蓄積され行動傾向が推測される。さらに身分や地位といった基本的な個人デ−タと消費デ−タと結びつけば、生活傾向が推測される。その情報をもとにダイレクトマ−ケッティングが行われたり、法的な機関が行動情報を求めたりする。

第2に、鉄道の利用状況が把握される。これは集団の移動傾向や移動のニ−ズの把握にもなる。ここから駅を中心とする都市計画が見直される。店舗の構え方や広告の出し方などが、生活者の移動傾向に合わせて変えられる。 このような移動の情報システムには、優れた点を指摘できると同時に問題点も多分に含んでいる。

第1の点では、移動に関わるコストの分担の平等化を、不正乗車の発見から実現でき、また乗車券による事故を防ぐことが出来る。一方、移動という生活上の必要かつ自由なものの覗き見から始まる利用であって、プライバシ−に関する大きな問題がある。

第2の点では、私たちにとって住みよい環境作りが行われ、合理的な都市の発展が見られ、生活の物的・心理的向上が見られるだろう。一方、経済的価値観が都市と生活の在り方を規定する最大要因となって、均質的な統合を導く。

自動改札の潜在的機能の問題点は「プライバシ−」と「都市化の変容」である。





自動改札とプライバシ−の問題の背景には、個人情報に関する法制の整備がなされていない現状がある。現在の法的規制は、1983年に制定された「貸金業に規制等に関する法律」のみであり、そこでは「情報の返済能力調査以外の目的での使用」を禁止している。その他の個人情報の保護に関する法規制は国際水準からして非常に立ち遅れていて、その整備はまだまだ検討段階を脱しない。

個人情報の利用は、公正な収拾と明確な目的を持つことを前提に、それらを請求があれば公開し、利用結果には責任を持つといった姿勢が必要だ。あらゆる個人情報の公的な利用や信用調査、マ−ケティングへの利用も、国と国民、企業と消費者の相互の満足・利益をもたらす方向に向かわなければならない。情報と利益のギブ・アンド・テイクは、「労働と貨幣」といった契約的責務による経済的交換や、人間の関係を支配する道徳的責務による社会的交換と同じ地平で、つまり前者は法と罪、後者は信頼と義務に支えられるべきものである。社会生活の結果や必然としての情報の収拾と、利用結果による一方的な利益の偏りは、情報による階統化・支配化を引き起こすことになる。個人情報の不正な利用は、個人と企業・社会との信頼関係の崩壊を導く。技術による電子ネットワ−クは情報通信の垣根を取り除く。情報が目に見えないように広げられていることに対して、私たちは深く認識し監視すべきであろう。

自動改札によって集められたデ−タがどこで個人情報と関わってくるかは、今後のカ−ド化等の進展によるだろう。現在の時点では兆候が見られるだけである。プライバシ−とは自己の情報を管理できることであるが、移動の情報を収拾する側は明確な上記のような倫理的対策をしなければ、それはサ−ビスなどころか、たちまちプライバシ−侵害となるであろう。

「電車に乗る」という行為は、発展した都市を自明のものとして利用する私たちには、もはや欠かせない生活の一部である。その生活の帰結が企業の営利目的に利用されているなら、静かで心のままの生活などそこには在りえない。プライバシ−が侵されるだけでなく、その先の行動までコントロ−ルされていくのであろうか。覗かれた生活が目に見えないネットワ−クを通じて他人に暴露されているような状況が、便利さ・快適さにて隠されるようなことが、自動改札の例に見るまでもなく高度情報化社会においては容認される傾向がある。

私たちは自ら懐疑意識を持つとともに、国家レベルの技術発展の推進のための企業の一方的な利益に国民を犠牲にするような法制の在り方に、大きく疑問を感じるべきだろう。





都市はその形態や構造が交通の構造によって構築されるということが、都市化の起源の在り方の一つであり、移動を媒介とする人間行動の社会化と集団化の方法でもある。当然その交通は鉄道のレベルだけではない。そして都市の現状がその帰結となっている。

現在日本の首都圏を注目したとき鉄道と都市の関係はまさに一目瞭然といえるだろう。鉄道の直接目的である移動だけでなく、住宅・土地といった不動産や商業施設・レジャ−施設といった流通、娯楽、また学校などの教育などが鉄道企業の関連での事業になっている。

さらに生活が合理化し都市が機能的に分化していった過程も鉄道による移動速度の変容に伴うものだ。こうして鉄道を中心とする都市文化が形成される。速度変容と生活の目的合理性による都市の機能的分化が私たちに移動を強制するようになる。逆に言えば私たちの移動を含む生活全体が鉄道企業の枠の中でのものだともいえるのだ。私たちはこれまでこの枠の中でも積極的な、よくいえば主意的なコミュニケ−ションを行うことで都市の生活を享受してきた。便利さを積極的に利用して、あるいはその背景の力に気付いていながらの醒めた楽しみ等だ。これらはいわば現代に対する私たちの気分といえるようなものだろう。これまでの都市と私たちの関係の問題が、豊かな生活を求めるための経済的合理化が一方でより禁欲的な生活を規範にしなくてはならないという、資本主義精神の矛盾の物的な現れのようなものであった。移動もしかりである。

ここでそのバランスを崩すものが現れることになる。それが情報の偏りである。都市化の関数に情報が加えられるのだ。自動改札による個人情報の利用がいかに都市を変容させるのかが問題となる。情報量・情報速度・情報空間の増大は、現代社会の動くべき方向を情報によって決定させる。都市においては移動情報の量や方向に従って発展するだろう。情報という莫大な量と正確性を同時に持つ判断基準があることによって、これまでのようなある意味曖昧な経験的な都市の形態は消えるだろう。行動に裏付けられた正確な都市計画。しかしこれは既に移動すべく移動するといった二重性の中での裏付けであって、より一層深い移動統制の淵にはまっていく。

そうして生まれるのが極度に分化し均一化を見せる都市だ。自動改札による移動傾向の把握は、量的な問題として都市の規模を決定するだろう。大きな都市はより多くの人々を受け入れるように巨大化し、過疎の都市さえ生まれてくるかもしれない。年齢や嗜好と組み合わせれば、都市の役割をより明確にして発展させていくような政策がとられるだろう。若者の行く都市や老人だけのための都市が出来たり、ショッピングのためだけの都市、住むだけの都市等・・・。数の多いものだけが残って他は切り捨てられてしまうというような極端なマ−ケティング至上主義の都市が出来上がってしまうかもしれない。

都市と都市を結ぶ駅空間も移動の出発点としてのある種のときめきを無くし、単なる機能的なインタ−フェイスと化すだろう。こうして移動情報の利用から出来た都市が私たちの移動を、さらには生活を一定方向に方向づけることになる。都市を媒介とする人と人との新しい出会いはそこにはない。都市を表象する十字路はなくなり、あらゆる立体交差が支配する都市。もはや生成を続ける生態としての都市は終焉を迎える。





自動改札にICカ−ドが使われることは将来的なことであり、決して切符が使われなくなるとか現金が必要なくなるというようなことをいうつもりはない。鉄道会社が都市を総合的に発展させてきたことを盲目的に批判するつもりもない。

移動という行為が情報によって一方的な方向へ導かれて行くような在り方を、移動の情報統制として論じてきた。しかし移動という意味を考える時、それは既にあらゆる自由からは引き離された者の行為なのかもしれないと考えることが出来る。

人は大地に道を作り始めた時からその場所を歩き始めた。車が通るようになると人が隅に追いやられた。鉄道は決してレ−ルを外れることはない。緩やかなカ−ブに沿って延々と往復を繰り返していく。家や都市を作って住むところを決めること。結局のところ行く場所は決められていたのだ。いや、もっと言うなら人間が木から降りて二足歩行を始めた時から移動の統制は始まっていたのだ。

陸、海、空とそれぞれの自然においてそれぞれの制約。それはいわば時間の方向が正の方向に移動するような、移動に内包される意味そのものでもある。その自然的制約を解放してきた方法で私たちの移動の外側にあるものを侵略するだけでなく、私達自身をも侵略すること、つまり解放の偽善性を見抜かなければ真の移動は起こりえないだろう。

遠く旅先から帰ってきた人が、駅でみるいつものしかめっ面にホッとする。このいつもの町に戻った喜び。私たちはこんな見知らぬコミュニケ−ションを通じても自分を発見できるのだ。




 
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